経年で美しさが増す天然木、深い軒や縁側がつくる趣は、古民家ならではの魅力です。古民家を移築すれば、好きな場所で古民家暮らしを始められます。
しかし、いざ移築しようと思っても、費用や移築方法がわからないと行動に移しにくいものです。そこで今回は、古民家移築の費用相場から移築の具体的な方法、移築するときの注意点などをまとめました。
移築の費用や方法を知る前に、まず古民家の移築とは何かを押さえておきましょう。古民家の移築とは、「古民家を一度解体し、別の場所で建て直す」ことです。
古民家の移築には、金属を使わず、木と木を組み合わせる「木組み」という伝統的な工法に価値を見出し、移築を通してその価値を残していきたいという考えが表れています。古材を再利用して建て直すことから、「移築再生」とも呼ばれています。古民家の解体、建て直しができるのは、古民家の構造を熟知した職人のみです。
また、建て直す際はリノベーションし、現代の暮らしに合った間取りや仕様にするのが一般的。そのため、古民家に精通した会社でなければ古民家移築は行えません。
古民家の移築費用は、その古民家の状態によって異なりますが、一般的に建物全体を移築する場合は新しく建て直すよりも費用は高くなります。坪単価は70万円がひとつの目安となります。
たとえば、30坪程度の古民家を移築する場合は、1,500万〜2000万円が相場です。以下に内訳をまとめました。
費用の内訳 | 費用相場(30坪の場合) |
直接工事費用 | 1,500〜2500万円 |
解体費用 | 90〜150万円 |
現地調査費用 図面製作費用 建材の洗浄費用、運搬費用 | 50万〜100万円 |
合計 | 1600万〜2800万円 |
費用の大半を占めるのが、直接工事の費用です。直接工事には、基礎工事、断熱工事、内外装工事、左官工事、電気・水道・ガスの接続工事、水回り設備工事などが含まれます。
なかでも、内装やキッチン・お風呂などの水回りは、材料や設備によって金額に差が生まれやすい部分です。明確な費用を知りたいときは、リフォーム会社に現地調査を依頼し、見積もりをもらうようにしましょう。
古民家移築には、実は3つの方法があります。移動させたい距離に応じて、「解体して移築」「解体せずに移築」に分かれます。それぞれの移築方法を見ていきましょう。
前述したように、一度建物を解体して、別の場所で建て直す方法です。建材をトラックで運べるぐらいの大きさにまでばらし、移築先へ運搬します。解体移築は車を使って運ぶことができるため、遠く離れた場所への移築が可能です。郊外から都市部への移築、他県への移築も行えます。
また解体は、建材を再利用することを前提に行うため、高い技術と丁寧な仕事が求められます。できる職人が限られたり日数がかかったりすることから、以降で紹介する2つの方法より費用は高くなる傾向です。
曳家(ひきや)移築とは、建物を解体せずに移築させる方法です。建物をジャッキアップして基礎から離し、そこに「コマ」と呼ばれる丸太やレールを送り込み、コマを転がしながら移動させます。3つの方法のなかで、もっとも建物の状態を保ったまま移築できる方法となります。
曳家移築は古民家をそのままの形・大きさで動かすため、長い距離の移動はできません。建物を少し移動させて駐車スペースを広げたいなど、敷地内で移築したいときに適しています。
吊り上げ移築も、曳家と同じく建物を解体せずに移築させる方法です。曳家と異なる点は、屋根や天井、床や壁を取り除き、構造体をクレーンで吊り上げて移築させる点にあります。
移築後に、屋根、天井、床、壁を新設するのも特徴です。吊り上げによる移築も、長い距離の移動はできません。敷地内で少し移動させたいときに限られます。
清水区のM様邸では、築80年を超える古民家を再築しました。既存の梁や軒などの古材を活かしながら、現代の生活スタイルにも合った構造を加えています。キッチンは広々としたシステムキッチンを採用し、フローリング仕上げも行ないました。
古民家をどのように移築し、どのくらいの費用がかかるものなのか、イメージが湧いてきたのではないでしょうか。具体的に古民家移築を検討するときは、移築のメリットや注意点も知っておくことが大切です。
古民家移築は、今あるものを活かしながら、心地よい暮らしをデザインする家づくりといえます。こうした家づくりのスタイルは、費用面、生活面、環境面でメリットを生み出してくれるもの。以下で詳しく見ていきましょう。
曳家や吊り上げ移築であれば、新築を建てるときの半分程度の費用で移築できることがあります。住宅金融支援機構の「2020年度 フラット35利用者調査」によると、新築(注文住宅)の所要資金の全国平均は3,534万円。既述の通り、移築にかかる費用総額の相場は1600~2800万円ですから、その差は大きなものです。
ただし、建物の移動距離や状態によって費用は幅があります。解体工事にはそれなりの費用がかかり、建物に傷みがあれば、それに応じた工事が必要です。リフォーム会社とよく相談したうえで判断するようにしましょう。
住宅金融支援機構|「2020年度 フラット35利用者調査」>>
古民家移築は、必ずしも古い建物をそのまま移動させるわけではありません。暮らしやすさを追求し、設備や内装をカスタマイズできます。
たとえば、キッチンやお風呂などの水回り設備が最新になると、暮らしにハリが生まれるものです。移築後、真新しい設備や空間を見たときは、特に「移築して良かった」と感じる瞬間かもしれません。古民家移築なら、古民家の趣を残したまま、希望の土地で心地よい暮らしを手にいれることができます。
家を取り壊せば産業廃棄物となり、処分するときにはCO2を排出します。しかし、移築であれば再利用を前提としているため、最低限の廃材しか出ません。
古民家移築は、環境にやさしい住環境のつくり方といえます。持続可能な社会の実現に向けて世界が動いている今、すでにあるものを大切にする古民家移築の価値は高まりつつあります。
続いて、古民家移築で気をつけたポイントをご紹介します。古民家の状態によって、移築できなかったり思わぬ費用がかかったりすることも。移築の計画を立てる前にチェックしておきましょう。
移築できる住宅は木造に限られます。つまり、伝統工法と在来構法どちらでも移築は可能です。ただし古民家の移築で使い回す古材は、近年柱や梁、建具のみという場合がほとんどで、全ての古材を再利用するとは限りません。
在来工法か伝統工法かを簡単に知りたいときは、建物の足元をチェックします。土台がコンクリートでしっかり固定されていれば在来工法、石の上に柱が乗っていれば伝統工法です。移築を検討している方は、今一度建物の土台を確認してみるといいでしょう。
日本の建築基準法では、1981年5月31日以前に建築確認が取得された建物は、「旧耐震基準」で建てられた建物とみなされます。旧耐震基準の建物は、現行の「新耐震基準」に適合するよう、耐震補強することが義務付けられています。つまり、古民家は基本的に耐震補強工事が必要になるということです。
この補強は、古民家が地震に弱いから行うというより、現代の基準に合った住まいにするために行うものとなります。古民家にも免震構造という仕組みで地震の揺れを「逃がす」はたらきがありますが、揺れに「耐える」耐震構造の考え方を採用している現代の耐震基準には満たないからです。
ただし、劣化が進んでいれば相応の補強が必要となり、金額も大きくなる点に気をつけましょう。なかにはすでに耐震補強を行なっている物件もあります。詳細は現地調査で調べてもらいましょう。古民家の耐震性や補強工事については、以下の記事もご参照ください。
古民家移築は建材の再利用を前提に行うものの、なかには経年劣化が進み、使えない資材も存在します。気に入った柱や梁を移築できない場合があることも押さえておきましょう。使えない資材は新材に交換するか、あるいはストックの古材を利用してコーディネイトしていきます。
いずれにしても異なる木材を使うときは、部材同士の取り合い(納まり)が重要となり、そこに職人技が光るもの。移築を依頼する会社選びがポイントになってきます。
古民家移築の知識が深まると、改めて古民家が「住み継いでいく住まい」であることがわかります。劣化が進んだ木材は、柱や梁に使えなくても、建具や家具として再利用できることがあります。
また、耐震補強を行うと古民家らしさを失ってしまうことがあるため、雰囲気を損なわない工夫も必要になります。ハレノヒ住まいは、古民家移築・リノベーションを専門に行っている会社です。古民家暮らしを豊かなものにするためのお手伝いをさせていただきます。