古民家暮らしに憧れてはいるものの、現代の建築基準法に適合しているのか不安に感じている方はいませんか?伝統構法で建てられた木造住宅という観点から、特に耐震性や防火性について気になることが多いかもしれません。
そこで今回は、建築基準法における古民家の立ち位置や、リノベーションする際に気をつけたいポイントなどを解説します。
まずは、建築基準法の概要と、法律上における古民家の取り扱われ方を見ていきましょう。古民家と建築基準法の関係性を理解できると、古民家リノベーションへの向き合い方がわかってきます。
建築基準法とは、建物を建築するときの最低限のルールを定めた法律です。1950年に制定されて以降、度々改正されてきました。
なかでも転換期となる大改正が行われたのが、1981年6月1日。1978年の宮城県沖地震を受け、耐震基準が大幅に見直されました。この改正以前の耐震基準を「旧耐震基準」、改正以降を「新耐震基準」と呼び、旧耐震時代に建てられた建物については、耐震性が懸念されているのが現状です。
このように、当初は建築基準法に適合していたものの、その後の改正により、新しい基準に適合しなくなってしまった建物のことを「既存不適格建築物」といいます。既存不適格建築物は違法建築物とは異なり、あくまで合法的な建物です。ただし、リフォームや増築時には一定の条件のもと、耐震補強工事が必要となります。
では、建築基準法において、古民家はどのような扱いになっているのでしょうか。伝統構法で建てられた古民家も、「既存不適格建築物」という立ち位置です。しかし、だからといって耐震性に問題があるとは一概にいえません。そもそも伝統構法の家は、法制定以前に建てられているため、現代建築用につくられた法律では伝統構法の安全性を判断することができません。
法の基準に合わないことで、伝統構法の建物はひとくくりに既存不適格建築物とされてしまいますが、実態は建物それぞれで異なります。劣化が進み補強が必要な家があれば、築200年300年を超える古民家があるように、地震に強い伝統構法の家もあるのです。
このように、すべての伝統構法の家が耐震性に問題があるわけではありません。古民家の耐震性については、以下の記事もご参照ください。
建築基準法において、伝統構法の建物は既存不適格建築物であると説明しましたが、適用除外される建物ものもあります。まず、国宝や重要文化財など、国が定める建築物です。これらに関しては、建築基準法の適用除外とする規定がきちんと定められています。
また、各自治体において歴史的価値のある建築物と判断したものも適用除外になります。あらかじめ自治体が一定の条例を定め、一定の手順を踏むことが必要です。
これは、自治体の判断で適用除外にすることで、地域の古民家などを観光資源として活用しやすくし、地域活性につなげることが目的です。2018年には、「歴史的建造物の活用に向けた条例整備ガイドライン」が策定され、より取り組みやすい環境になっています。
報道発表資料:「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」を策定しました!
~古民家等の歴史的建築物を活用した、魅力ある観光まちづくりに向けて~ – 国土交通省
自治体の判断によって建築基準法の適用除外とできるのは、事業として活用できる古民家に限られています。そのため一般の古民家は、依然として既存不適格建築物とみなされ、現行の建築基準法に沿った改修が求められるのが現状です。
しかし、古民家などの歴史的建造物を有効活用する動きがあるのは確かです。近年の大きな動きとして、2018年3月に「建築基準法の一部を改正する法律案」が閣議決定されたことが挙げられます。
この法律案では、老朽化した木造建築物および空き家への対応や、既存建築ストックの活用など、木造住宅や中古住宅に対する建築基準の見直しが盛り込まれています。一般の古民家の安全性を適正に判断できる基準が整う未来も、そう遠くないかもしれません。
報道発表資料:「建築基準法の一部を改正する法律案」を閣議決定 – 国土交通省>>
古民家など既存不適格建築物を増築あるいは大規模修繕する際は、工事をする部分だけでなく、原則として建物全体を現行の建築基準法に適合させることが求められます。つまり、大規模な耐震改修が必要になるということです。
ただし、工事をする部分の面積が既存部分の1/2以下の場合は、一定の条件を満たすことにより、既存部分の現行法令への適合を不要とする緩和もなされています。施工会社とよく相談のうえ、どの程度リノベーションするか決めていくといいでしょう。
また、耐震補強工事は補助金の対象となります。適用要件は自治体によって異なるため、あらかじめお住まいの自治体に確認しておくと安心です。
古民家のリフォームに使える補助金・減税制度を詳しく解説!>>
古民家をリノベーションする際は、耐震性能以外の部分においても、現行の建築基準法の規定に適合させる必要があります。規定内容は建物の面積や階数などによって異なり、住宅、飲食店、物販店、宿泊施設など建物の用途ごとに細かく指定されています。
たとえば住宅でいえば、キッチンなど火を使う部屋の壁と天井は準不燃材料にして換気設備をもうける、建物全体に一定面積以上の窓を設置して採光を確保するなどです。飲食店、物販店、宿泊施設では上記に加え、非常用照明や排煙窓における規定が制定されました。
もっとも厳しい規定がもうけられた宿泊施設では、準耐火構造の間仕切り壁の設置を定めています。古民家の改修に詳しい専門家と相談しながら進めていきましょう。
以下は県外の事例ですが、古民家の用途別に設けられた構造や設備の基準が記載されています。住宅以外で古民家の利用をお考えの方も、ぜひ参考にしてください。
建築基準法は耐震構造を基準としているのに対し、伝統構法で建てられた古民家は免震構造ででてきます。そのため、足並みが揃いにくいのが現状です。
しかし、徐々にではありますが歩み寄りが見られているため、今後の動向をチェックしていきましょう。ハレノヒ住まいでは、古民家に精通した古民家鑑定士が対応させていただきます。法令に関することもきちんと対処していますので、ぜひ安心してご相談ください。