身体を芯から暖めてくれる薪ストーブは、時代を超えて愛され続ける暖房器具です。ゆらゆらと揺れる炎、時折聞こえる薪がはぜる音には、何かしら心に語りかけるものがあります。
今回は、薪ストーブの魅力をはじめ、古民家におすすめの薪ストーブの種類や設置方法、注意点などを解説します。古民家リノベーションで、火のある暮らしを始めてみませんか。
自然素材で丁寧につくられた古民家には、薪ストーブがよく似合います。炎に癒されるという方も多いのではないしょうか。まずは薪ストーブの魅力から見ていきましょう。
薪ストーブの魅力といえば、やはり薪が燃えるときに上がる炎。とらえどころのない炎の動きを眺めているだけで、不思議と心が落ち着くものです。木が燃える匂いや爆ぜる音も、五感に心地よく響きます。
薪ストーブの暖かさの特徴は、遠赤外線の「輻射熱(ふくしゃねつ)」にあります。最も身近な輻射熱の例はお日様の暖かさです。輻射熱は熱源から離れた場所にいても、身体をじんわりと芯から暖めてくれます。また、壁や床にも遠赤外線が蓄熱されるため、薪をくべるのをやめても暖かさが続くのです。
こうした薪ストーブの暖かさは、対流(空気の流れ)で室内を暖めるエアコンとは異なります。また、石油ストーブの暖かさも輻射熱によるものですが、薪ストーブの熱量にはかないません。
薪ストーブはカーボンニュートラルな暖房機器です。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることをいいます。
薪ストーブの燃料となるのは木材です。木が育つ過程で吸収した空気中の二酸化炭素の量と、木が燃えるときに排出する二酸化炭素の量はほぼ同量。つまり、大気中の二酸化炭素の量を変えることなく利用できます。
一方、灯油を燃料にする石油ストーブや電気をエネルギーとするエアコンは、二酸化炭素を吸収する過程がないため、カーボンニュートラルな暖房機器とはいえません。
環境省では、持続可能な社会への転換に向け、薪ストーブをはじめとするバイオマスストーブの適切な普及を図るためにガイドブックを作成しています。こちらも参考にしてみてください。
木質バイオマスストーブ 環境ガイドブック~薪・ペレットストーブの環境にやさしい使い方~
薪ストーブには種類があることをご存じでしょうか。古民家におすすめな薪ストーブは次の4つです。以下でそれぞれの特徴を見ていきましょう。
● 鋳物製薪ストーブ
● 鋼板製薪ストーブ
● ペレットストーブ
● 時計型ストーブ
鋳鉄でつくられた薪ストーブです。溶かした鉄を型に流して成形するため、曲面デザインや凝ったデザインが可能。きれいな模様を描くこともでき、意匠性に優れているものが多いです。
鋳物製の薪ストーブの本体はあたたまるまでに時間がかかりますが、一度あたたまると蓄熱性があるため、冷めにくいという特徴があります。火を消したあとも、余熱で室内を暖めてくれるのです。
剛板を加工し、組み立てて作られる薪ストーブです。直線のすっきりとしたデザインが特徴で、モダンな部屋にもよく合います。
温まりにくく冷めにくい鋳物製薪ストーブに対し、鋼板製薪ストーブは温まるまでは早く、冷めやすいという特徴があります。短時間の使用が多い場合は、鋼板製薪ストーブのほうが使い勝手がいいでしょう。
薪ではなく、木質ペレットを燃料とするストーブです。電力を使って点火したりファンを回して送風したりする機能がついたものが主流ですが、電力のないタイプもあります。
薪ストーブは排気のためにしっかりとした煙突が必要ですが、ファンがついたペレットストーブは、薪ストーブほど大掛かりな煙突は必要ありません。スイッチ点火が可能なので、薪ストーブより取り扱いが簡単です。
時計型ストーブは、持ち運びも可能な小型の薪ストーブのこと。費用を抑えて薪ストーブの暖かさや炎のゆらめきを体験したい、というときにおすすめです。
脚や煙突は取り外しが可能なタイプもあるので、アウトドアなど屋外で使いたいときにも便利です。素材は鉄のほか、ステンレス製のものもあります。
薪ストーブを導入するときは、ストーブ本体と煙突の取り付け、熱から壁や床を守る炉台や炉壁の設置が必要になります。そのため、設置場所の選び方や必要な工事、かかる費用などを事前に知っておくと安心です。
設置場所によっては、壁を取り除いたり床を補強したりといった工事が必要になることも。その際は、古民家の耐震基準や防火構造も考慮したリフォーム・リノベーションを行うことが大切です。古民家の構造を熟知した専門家とともに進めていきましょう。
ここでは、薪ストーブの選び方や設置する場所、必要な工事や費用について解説します。
薪ストーブを選ぶときは、ストーブの「高さ」「重さ」「遮熱性」の3つを意識すると、暮らしに寄り添ったストーブを選びやすくなり、設置もスムーズです。
まず高さについては、床に座る生活か、椅子に座る生活かといった点で考えます。人のいる位置や目線に合った高さの薪ストーブを選ぶことで、効率的に暖かさを感じられるとともに、ゆらめく炎も眺めやすくなります。
薪ストーブは重量があるため、重さによっては床の補強工事が必要になることも。リフォーム費用を抑えたい場合は、現在の古民家の床に耐えられる重さの薪ストーブを選ぶのも一手です。
薪ストーブを置くときは、一般的に炉台や炉壁の設置が必要となりますが、工事が難しい場合は、遮熱性の高い薪ストーブを選ぶのもひとつです。製品の中には、炉台や炉壁の設置が不要なタイプもあります。
前提として、薪ストーブを置く周辺の下地や仕上げ材は「特定不燃材料」にする必要があります。実際の対象範囲は薪ストーブの寸法から計算されるので、業者や専門家に相談して進めていきましょう。
そのうえで、古民家に薪ストーブを設置するときにおすすめなのは、囲炉裏があった場所です。囲炉裏の火を焚く部分は頑丈に作られているため、床の補強が不要な場合があります。また、囲炉裏は家の中心に配置されていることが多いので、間取り的にも設置しやすいでしょう。
ほかには、土間もおすすめです。床材が特定不燃材料である石やモルタル、コンクリートでできていることが多いため、火を扱う薪ストーブを置きやすい環境です。加えて、薪の搬入や掃除も楽に行えるというメリットがあります。
現代住宅の基礎は新耐震基準法によって鉄筋コンクリートでできていますが、法律制定以前に建てられている古民家の基礎は木材と石のみです。
強度のある構造ですが、木材の劣化によって耐久性が低くなっている可能性があり、薪ストーブおよび炉台の荷重に耐えられるかは不安が残ります。必ず専門家に確認してもらい、必要に応じて床補強を行いましょう。
炉台とは薪ストーブ本体の下に置く台のことです。床を熱から守るとともに、薪ストーブの重さを分散させる役割があります。炉壁とは遮熱板とも呼ばれ、薪ストーブ本体の背面に設置する壁のこと。低温炭化によって焼けてしまうのを防ぎます。いずれも、薪ストーブを安全に使用するために欠かせない設備です。
薪ストーブの設置では、原則として煙突の設置が欠かせません。排煙することはもちろん、煙突内の空気が暖まることで発生する気流(ドラフト)が、燃焼に必要な空気を薪ストーブ本体に送り込みます。つまり、ドラフトがファンの役目を担っているのです。
ドラフトが弱いと燃焼に十分な空気が供給されず、薪が燃えにくくなるうえ、煙突にタールがつき故障の原因に。ドラフトの流れをスムーズにするためには、できるだけ真っ直ぐに煙突を立ち上げることがポイントです。
また、煙突の設置には法令によって規定が設けられています。煙突の垂直部分の長さや可燃材料との距離など細かく定められているため、これらを遵守して設置するようにしましょう。
薪ストーブで効率よく暖をとるためには、家の断熱性も重要な要素。断熱性が低ければ、薪ストーブの性能は十分に発揮されません。
古民家は高温多湿の気候に合わせて風を通す造りになっているため、断熱性や気密性は低めです。薪ストーブの効果を最大限に発揮させるためにも、家の断熱性能を把握して適切な断熱対策を行いましょう。以下、断熱対策の一例です。
● 天井や壁、床に断熱材を追加
● 家中の隙間をなくす
● 窓を断熱仕様にリフォームする
室内の熱流出が最も多い場所は「窓」です。冬の暖房時、窓から58%の熱が流出しているといわれています。まずは窓の断熱リフォームを検討してみるといいかもしれません。
古民家の窓や断熱については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
寒い古民家をリノベーションで断熱!ポイントや費用相場を解説>>
省エネルギー建材普及促進センター 【Q&A】開口部からの熱の出入りは、どの位あるのですか? >>
薪ストーブを設置するときのコストを見ていきましょう。一般的な薪ストーブの設置費用の目安は以下のとおりです。
項目 | 費用目安 |
薪ストーブ本体価格 | 20万〜100万円 |
煙突価格 | 40万〜60万円 |
炉台・炉壁価格 | 4万〜40万円 |
設置工事費用 | 20万〜35万円 |
ただし古民家に導入する場合は、上記に加え、床の補強工事や断熱工事など、追加のコストがかかります。まずは、リフォーム会社に古民家の現地調査をお願いし、必要な工事と費用を把握することから始めましょう。
自治体によっては薪ストーブの設置に関する補助金制度を設けていることがあります。制度の詳細については、各自治体にお問い合わせください。
DIY で薪ストーブの設置を考えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、安全に薪ストーブを利用するためには、やはりプロの目線と技術が必要です。特に古民家の仕様は現代住宅と異なるため、ご自身で見聞きした情報では不十分な場合もあります。
古民家に薪ストーブを導入するためには耐火対策が欠かせず、床の補強、断熱工事など大掛かりな工事が必要になることが多いです。火を扱う薪ストーブは、ささいなミスが火災などにつながるリスクがあるため、技術をもったスタッフがきちんと工事にあたることが大切です。
また、建築基準法など各種法令による規定もあります。古民家や住宅設備の知識をもったプロに任せるのが、最も安心で確実です。費用を抑えたいときはその旨を施工会社に伝え、より良いプランを提案してもらいましょう。
古民家に薪ストーブを設置するときに押さえておきたい注意点をまとめました。これらをトータルに判断して、薪ストーブの導入を決めていきましょう。
これまでご紹介したとおり、古民家に薪ストーブを設置する場合は、通常の薪ストーブの設置に加え、耐火対策、床の補強、断熱改修など、大規模なリノベーションが必要になります。資金計画に余裕をもって取り組むことが大事です。
しかし見方を変えれば、薪ストーブの導入によって、現代の暮らしに合った住まいに近づけられるともいえます。長く住み続けるためのリノベーションと捉えて取り組んでみましょう。
薪ストーブを使うには、当然ながら薪の確保が必要です。薪を確保する方法は、自力で集める方法と購入する方法があります。
薪ストーブに使う燃料は、伐採木です。薪ストーブを設置している人、林業を行なっている人、造園関係の仕事をしている人などから伐採木の情報を集め、譲り受けましょう。自力で薪を集めることができれば、燃料代は0円です。ただし手間と時間はかかります。
薪を購入するのであれば、通販やホームセンターなどで購入可能です。しかし、コストは高くつきます。一般的に一冬に使う薪の量は、少なく見積もっても2トン、金額にすると6万円程度はかかる想定です。この金額は断熱性能に優れた現代住宅の場合のため、古民家の場合は4トン、12万円程度と考えておいたほうが安心です。
薪ストーブはほかの暖房機器と比べ、暖まるまでに時間がかかります。その反面、一度暖まれば余熱で暖をとれる良さがあります。
そのため、すぐに暖をとりたい方や、短い時間だけ暖まればいいという場合は、薪ストーブは不向きかもしれません。あるいは、ほかの暖房器具と併用して使うのがおすすめです。
また、薪を重ねて置き、着火材に火をつけ、空気調整レバーを操作するなど、火をおこすまでにいくつかのステップがあります。薪ストーブはこうしたひと手間を楽しめる方に向いているでしょう。
薪ストーブを効率的かつ安全に使うためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。シーズン終わりには必ずストーブ本体と煙突のメンテナンスを行いましょう。
本体のメンテナンスで忘れてはならないのが、扉まわりについているパッキン(ガスケット)です。ガスケットが劣化していると空気調整がうまくできず、燃費が悪くなってしまいます。
煙突のメンテナンスでは、煙突内のススやタールをきれいに落とします。ススはストーブから上がってくる熱い空気で着火してしまうこともあるため、入念な掃除が必要です。高所作業が苦手な方は無理をせず、煙突業者などに依頼しましょう。
古民家に薪ストーブを設置する際のポイントや注意点などをご紹介しました。薪ストーブはほかの暖房機器と比べて手間がかかったり、コストがかかったりする部分はありますが、それ以上に暮らしを豊かにしてくれる魅力に溢れています。
薪ストーブを導入する際のリフォーム・リノベーションは、ハレノヒ住まいにお任せください。古民家に精通したスタッフが丁寧に対応させていただきます。
また、そのほかの暖房機器としてエアコンを検討されている方は、下記の記事も参考にしてみてください。