建築業界では、さまざまな専門用語が使われています。とくに古民家については聞き慣れない用語も多く、「古民家について調べたいけれど、部位の名称や建築用語がわからない」と困ってしまうこともあるかもしれません。
そこで今回は、古民家について調べたりリフォームを検討したりするうえで覚えておきたい、部位の名称や用語について解説します。構造、外装、内装の3つに分類してまとめていますので、わからない名称がないか確認していきましょう。
「大棟」「破風」「鼻栓」など、古民家の構造に関する用語をピックアップしました。伝統構法で建てられた古民家の屋根や基礎部分には、在来工法とは異なるさまざまな工夫が見られます。
古民家の構造については、こちらの記事でも解説しています。構造の概要や特徴について知りたい方は、併せて確認しておきましょう。
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二つの屋根の面が接合する部分を「棟(むね)」といいます。そのうち、屋根のいちばん高いところにある水平の部分が「大棟」です。また、大棟に用いる材木を「棟木(むなぎ)」といいます。
建物の骨組みができあがり、棟木を上げる際には「上棟式(じょうとうしき)※」が行われます。
※上棟式は、棟上げ、建前などとも言われます。
切妻(きりづま)や入母屋(いりもや)造の屋根の両端にある、三角の部分が「破風」です。または、両端に取り付けられる三角形の板を「破風」と呼ぶこともあります。
破風には、屋根の両端に見える「垂木(たるき)」などを隠す役目があります。
「茅葺屋根」は、チガヤ、スゲ、ススキ、アシ、稲ワラ、麦ワラなどを用いた草葺きの屋根の総称です。「藁葺(わらぶき)」屋根と呼ばれることもあります。
茅葺屋根は保温性や断熱性に優れていますが、耐久性や耐火性は高くありません。そのため、江戸時代以降は、粘土を原料とした瓦屋根が徐々に普及していきました。
古民家の屋根材については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
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屋根を支えるために、棟木から軒先へ渡す長い木材のこと。垂木の上に裏板を張って、瓦や茅などの屋根を葺く材料を置くのが一般的です。
垂木は並行に配列されるのが一般的ですが、寺院などでは建物の中心から放射線状に広げるような形式も見られます。
家の構造上もっとも重要な柱で、その家のシンボルともいえます。古民家の場合、最初に大黒柱を立て、そのあと棟や梁などの骨組みを組み立てるのが一般的です。
大黒柱に用いられる樹種は堅くて丈夫、なおかつ木目が美しいケヤキが代表的です。このほか、カシ、ナラ、サクラなどが使用されることもあります。
地面や土台の上に垂直に立て、屋根や梁、床などを支える木材の総称です。大黒柱にも用いられるケヤキのほか、ヒノキ、サクラ、クリなどが用いられます。いずれも目が詰んでいて硬く、シロアリに食べられにくいのが特徴です。
このほか、スギやブナなどが使われることもあります。
柱と柱をつなぎ、棟木と平行に渡される部材が「桁」、桁に対して直交して設置されるのが「梁」です。曲がり松は、古民家の梁によく用いられる木材のひとつ。桁も梁も水平方向に伸びて、屋根や床を支え、柱に荷重を伝えています。
古民家における梁については、こちらの記事でも解説しています。梁を活かしたリノベーション例もありますので、ぜひチェックしてみてください。
差し鴨居などを、柱に貫通させて組む方法を「長ほぞ差し」といいます。「ほぞ」とは、2つの材木をつなぎ合わせるとき、片方の材木に作る凸部分のことです。
差し鴨居が柱からぬけないように、指し鴨居のほぞに打ち込む木製のくさびを「鼻栓」といいます。
また、柱とほかの部材を固定するために、柱に対して垂直に打ち込む太めの木製のくさびが「込み栓」です。込み栓をすると、地震が起きても柱とほかの部材がぬけたりしにくくなるというメリットがあります。鼻栓と込み栓で、揺れを受け止める役目もあります。
柱と柱の間を水平に貫いてつなぐ部材で、木造建築では水平方向の固定に用いられます。位置によって「頭貫(かしらぬき)」「地貫(じぬき)」などと呼ばれることもあります。
天井板を支えるために取り付けられた、細長い材のこと。竿縁を用いた天井を「竿縁天井」といい、和室の天井にもっともよく使われる形式です。なお、竿縁には装飾としての機能もあります。
一般的に、床の間と平行になるよう約45cm間隔で設置されます。
地面に据える礎石を「束石(つかいし)」、その上に立つ床を支える柱を「床束(ゆかつか)」といいます。大引は床束の上に置かれる横材で、大引の上に直交する形で乗るのが根太です。根太の上に床板を張ります。
木造建築のもっとも下部にある横材を「土台」といいます。地面に近いため、湿気に強く腐りにくいクリやヒノキなどが用いられます。
石場建て工法では、石の上に柱あるいは土台を置きます。このように、建物の基礎に据えられる石が「礎石」です。柱や土台が直接地面に触れていると、腐ったり劣化したりしやすいのですが、礎石を用いることで防げます。
なお、礎石には自然石が用いられることもあり、この場合は、木材部分を自然石の凸凹に合うように加工する作業が必要です。
古民家建築の一般的な工法で、石の上に柱を立てる工法を指します(画像左)。柱と石を固定せず、建物の重みで安定させているのが特徴です。
石場建て工法の前は、地面に穴を掘って柱を立てる「掘立柱建物」が一般的でした。
石場建て工法で建てられ、柱や梁、土壁などで構造材をつくる古民家は、地震発生時には建物自体が揺れて地震のエネルギーを逃し、倒壊しにくい構造になっています。このような免震構造を「柔構造」といいます。
柔構造とは反対に、揺れによる建物の変形をできるだけ抑えようとする免震構造を「剛構造」といいます。
続いては、古民家の外装・外観に関する用語を説明します。「鬼瓦」「なまこ壁」「格子窓」などは、日本各地にいまなお残る伝統的な町並みでも見ることができます。
大棟の端を飾る瓦が「鬼瓦」です。「鬼面」「鬼板」とも呼ばれます。昔は、魔除けのために鬼の面をかたどったものが多く用いられましたが、いまではさまざまなデザインがあります。
一方、軒先に用いられる丸い瓦は「軒丸瓦」といいます。軒丸瓦によく見られる「巴紋」は、水の渦巻きが起源とされることから、火除けの願いが込められているといわれます。蓮の花の装飾を施した「蓮華紋」も有名です。
柱などの構造体を、漆喰壁などで覆い隠した壁を「大壁」といい、土蔵や城郭によく見られます。
大壁とは反対に、柱が見えるようにつくられた壁が「真壁」で、和室は真壁が一般的です。真壁は大壁に比べて美観に優れますが、大壁は壁の内部で補強が可能なため、耐震性が高いという特徴があります。
外壁に平瓦を並べて張りつけ、目地に漆喰をかまぼこ型に盛り付けて仕上げた壁を「なまこ壁」といいます。盛り上げた漆喰の形が、海のナマコ(海鼠)に似ていることからこの名がつけられています。
なまこ壁は防火や防湿効果に優れており、台風など雨風による被害を抑える効果もあるため、土蔵の外壁に用いられることも多いです。
建物の開口部(玄関や窓など)の上に張り出すように設置された、小さな屋根のこと。庇には、家屋を雨や日光から守るという役目があります。
襖や障子などの上部にあり、開閉のための溝が彫られた横木を「鴨居」といいます。「差し鴨居」は鴨居よりも縦幅が広く、鴨居としての役目ももちながら、構造材としての役目も果たしています。
角材を縦横に組んだ建具を「格子」といいます。格子を取り付けた窓が「格子窓」です。格子には、採光と通風を確保するという役目のほかに、外部からの侵入や視線を防ぐという、防犯およびプライバシー保護の役目もあります。
格子にはさまざまな種類があり、京町屋などでは、格子のデザインによってその家の職業や商売を表現していたと言われています。
建物の周囲に張りめぐらされた、板敷きの通路が「縁側」です。
縁側のうち、建物外部の庭に向かって設けられ、建具や雨戸などがない状態のものは「濡縁(ぬれえん)」、建具や雨戸の内側にあるものは「広縁(ひろえん)」といいます。民家に縁側が設けられるようになったのは、17世紀ごろと考えられています。
また縁側は新設することもできます。縁側のリノベーションについては、こちらの記事で解説しています。
「縁柱」は「縁側柱(えんがわばしら)」ともいい、その名が示すように、縁側にある柱です。縁側の外側に設置され、壁から外に張り出した屋根の部分(軒)を支えています。
「沓」は、履き物のことです。「沓脱ぎ石」は主に縁側などの前に置かれ、その名のとおり履き物を脱いで置いたり、縁側を上り下りする際の踏み台にしたりします。
沓脱ぎ石を置くことで、建物と庭の行き来が簡単になります。
最後は、古民家の間取り・内装に関連する用語です。「床の間」「土間」「囲炉裏」などは、現代の住宅ではあまり見かけなくなりました。けれどそこには、昔の人たちの生活の知恵や美意識が詰まっています。
古民家全体の特徴について、こちらの記事も併せてチェックしてみてくださいね。
日本の古民家の特徴は?現代の住宅との構造や間取り、住み心地の違いを解説!>>
天井と鴨居の間の開口部にはめ込む板を「欄間」と呼びます。もともとは採光のために設けられたと考えられますが、通風や装飾としての機能もあります。平安時代には貴族の家に採用され、その後庶民にも普及していきました。
緻密な彫刻がされた「彫刻欄間」、木をくり抜いて意匠を表現する「透かし彫り欄間」、桟(細長い材)を縦に組み、横の桟を数筋入れた「筬(おさ)欄間」などが代表的です。
客間などの座敷の床を一段高くしたスペースで、壁に掛け軸を飾ったり、置物や花を置いたりします。床の間は和室の重要な要素で、おもてなしの精神や客室の雰囲気を表現する役目があります。
床の間の両脇に立て、座敷のほかの柱と樹種や形状などを変えた柱は「床柱(とこばしら)」と呼びます。
床の間の横にある、棚や地袋(建具がついた戸棚)がある空間を「床脇(とこわき)といいます。床脇の棚にはさまざまな形式があり、「違い棚」もそのひとつ。2~3枚の棚板を段違いに配し、左右から取り付けます。
ほかに、漢字の「一」のように水平に設ける「通し棚」、箱型に組む「箱棚」などがあります。
家の中で、床板を張っていないスペースを「土間」といいます。地面のままの場合もあれば、三和土(たたき)、コンクリート、珪藻土、漆喰などで仕上げる場合もあります。古民家では、玄関だけでなく台所が土間になっている場合もあります。
土間は現代風にアレンジして活用することができます。こちらの記事で解説していますので、土間を残してリノベーションをしたい方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
現代の「コンロ」にあたるのが「竈」です。土間に設置され、薪をくべて調理します。京都では「おくどさん」、関西では「へっつい」とも呼ばれます。家族や客人が集う部屋に設けられ、調理や食事、暖をとる目的で使われるのが「囲炉裏」です。
竈や囲炉裏から出る煙や煤(すす)は、梁や天井を黒く燻してしまいますが、防虫効果もあります。
複数の部屋を、漢字の「田」の字のように障子やふすまで仕切った間取りを「田の字型」といいます。田の字型は民家の伝統的な間取りで、かつては団地などでもよく見られました。
田の字型の間取りは、仕切りを取り払うと複数の部屋がひと続きになるのが特徴で、このような仕様を「続き間」あるいは「続き和室」といいます。祝事や法事など、来客の多い場合に役立っていました。
屋根のうち、建物の壁より外に出ている部分を「軒」と呼びます。軒の下の空間が「軒下」です。軒下には縁側が設けられたり、野菜や果物が干されたりするほか、用水が流れていることもあります。
電線を支えて、電流が周囲の柱や梁などに伝わるのを防ぐ絶縁体のことを指します。磁器やガラス、樹脂などが使われます。
おちょこのような形をしたもの、四角形のもの、筒のようなものなどさまざまな形があり、古民家ならではの味わいのあるアイテムのひとつです。
近畿地方から中部地方にかけて、ひげをたくわえ、中国の官人風の衣装を着た像が軒先に置かれているのを見ることがあります。この像が「鍾馗」で、魔除けの意味があります。
「鍾馗」は、もともと中国で信仰されていた神様で、邪気や疫病を追い払うと言われていました。日本には室町時代ころに伝わり、端午の節句に絵や人形を奉納する習慣が生まれました。
外壁を土壁でつくり、漆喰で塗り固めた倉庫を「土蔵」といい、一般には「蔵」と呼ばれます。
土蔵の壁は厚みが20~30㎝あり、耐火性、調湿性、恒温性に優れることから、お米やお酒、貴重品などが保管されました。店舗・住居を兼ねたものは「見世蔵(みせぐら)」と呼ばれます。